2007.03.27
2006年の集大成
さて、先般のブログで図らずも受賞をしたという論文について、
この場を借りて、少々ご紹介したい。
QBSでは、プロジェクト演習といって自らが設定したテーマに基づき
研究を行い、その集大成としての論文を記し発表しなければならない。
これが必修であるので、学校に通うものは必ず通らねばならない
関門なのです。
僕はこのプロジェクト演習において何を行ったのか?
そのテーマは…
「コミュニティが作るコンテンツの権利・価値と戦略的利用提案」
というもの。
一見してわかる人は、かなりネット通とお見受け。
まぁ要はのまネコだ、電車男だ、から始まってWeb2.0を通じ、将来情報や
コンテンツはどのように変遷し、僕らの生活をどう変えるのか?ということを
大胆に予言してみたのです。
もちろん以前から興味があった話題でしたが、
やはり完全に引き金を引いてしまったのは昨年3月にシリコンバレーに行ってから。
そこでの体験とその後の学習を経て、Webのイノベーションは加速度的に進み
かつ、それがシステム技術系の変化から、中身…つまりコンテンツの発展に
まさに進みつつあることを目の当たりにした。
で、その礎になるもののひとつが「あなた」というわけ。
そう、TIMEのPerson of the yearの話につながるわけです。
もしも読みたい方いらっしゃったら、コメントに記載してください。
一応コメント書いた方が「僕は」わかるようにしておいてくださいね。
では、「つづき」の後に、論文の序説をそのまま貼り付けます。
ちょろっと読んで興味がわいてくれるといいのですが…。
コミュニティが作るコンテンツの権利・価値と戦略的利用提案
序章 「社会的記憶」の変革と人類の発展 ~研究の概要と背景
「あらゆる記憶は、純粋に単独で個人的なものと、共有されて社会的なものとに分けることができる。
個人的な記憶は個人の死とともに消えるが、社会的記憶は残る。その記憶を整理保存し、回収するみごとな能力は、
人類進化の秘密であった。従って、社会的記憶を形成したり保存したり使用したりする方法が著しく変化する場合、
それは人類の運命の源泉に関係してくる。これまでに二度、人類はその社会的記憶を改革した。
今日、新しい情報体系を創造するに当たって、三度目の変革の線にさしかかっているといえる。」
(第三の波 A・トフラー 中公文庫 1982 P241)
今から25年前に未来学者 アルビン・トフラーは人類が共有する記憶・情報を「社会的記憶」と定義づけた。
20世紀までに行われてきた方法と全く異なる方法で、この社会的記憶を管理し、そして人々が利用する
世の中が訪れることを予言していた。トフラーの言う二度目までの社会的記憶の改革は下記の通りだ。
一度目は個人の頭の中に保存していた時代だ。即ち長老や賢人の伝承・口述でのナレッジマネジメントを表している。
そして二度目の変革は識字率の向上と、伝承技術の発達による産業記録の保存を挙げている。
具体的には印刷技術の発達による文物の形成、ならびに建築技術の発達による美術館・博物館の建築などが該当する。
これらの前提を踏まえ、トフラーは「三度目の変革」が1980年当時において既に始まっており、
後に飛躍的な発展が見込まれることを明確に予言した。
25年が経ち、トフラーの描いた通信の形態は現実のものとなった。平成17年通信利用動向調査によると、
日本国内で過去1年間にインターネットを利用したことのある人は推計8,529万人に達し、前年末から
581万人増(7.3%増)と、引き続き増加した。人口普及率も推計66.8%となり、4.5ポイント増加した。
ブロードバンド回線の利用者数は、前年末と比べて460万人増加(10.8%増)して推計で4,707万人となった。
インターネット利用者に占める割合も55.2%に達するなど、ブロードバンド化も引き続き進展している。
ウェブ進化論の著者、 梅田望夫氏によるとこの爆発的な普及の原因として「ムーアの法則」を提唱した。
それによると「もともとは『半導体性能は1年半で2倍になる』というシンプルな法則だったものが、
現在は広義に『あらゆるIT関連製品のコストは、年率30%から40%で下落していく』という意味に転じた。」
(ウェブ進化論 梅田望夫 ちくま新書 2006年2月P10)とのことだ。
この法則どおり、インターネットを通じた各ツールの価格が一般消費者の購入可能レベルに落ち着いた。
他方でオペレーションシステムをはじめとする様々なインターフェイスの使用方法が以前に比べ平易になり、
さほどコンピュータへの知識がない人でも気軽に取り扱えるだけの環境と情報が日本国内において普及してきた。
これらの事情から日本国民にとってインターネットはより身近な情報収集媒体となったばかりか、
情報を整理・構築・発表するためのツールにも為り得た。それはもちろん個人一人ひとりが文章を書き、
写真を撮り、その写真をパソコンへ移動させることから始まり、HTMLによってホームページの構成や
デザインを行い、自分自身が出したい情報をインターネット上に公開し発表するという一連の行動までを指す。
情報の保持者が「発表したい」「公開したい」というインセンティブを持つからこそ人々は
「ホームページを作る」という行為に携わるようになり、これがトフラーの言うところの「今日、新しい情報体系を
創造するに当たって、三度目の変革の線にさしかかっているといえる」状態だ。いわゆる三度目の
「社会的記憶の改革」である。
「日本だけでも数千万人、世界全体でいえば10億人規模の人々が、某か自らを表現する道具を持ち、
その道具が『ムーアの法則』の追い風を受けてさらに進化を続けていくと何が起きるのか。
それは、今とは比較にならないほど厖大な量のコンテンツの新規参入という現象である。
人口全体に対する表現行為を行う人たちの比率はそう大きくなくても、母集団が数千万とか億という単位になると、
コンテンツの需給バランスが一気に崩れる。『そんなコンテンツなんて大半はクズではないか』というのも
権威側からよく聞かれる言葉なのだが、玉石混交の厖大な量のコンテンツの中から『石』をふるいよけて
『玉』を見出す技術も、今や日進月歩ならぬ分進日歩といったスピード感で進化を続けている。」
(ウェブ進化論 梅田望夫 ちくま新書 2006年2月P12)
このように巷の人々、一人ひとりがインターネット上のあちこちで情報発信、すなわち「社会的記憶」の発表と
保存を実施しだしたことにより、他方で異なる人々(ユーザ)らによって「電子記憶装置を使って、
会話の内容を主題、日付、その他の項目別に再生」が、されだした。トフラーが言うところの「再生」とは
インターネットを利用する21世紀の人間に馴染みある言葉で表現するところの「検索」に当たる。
情報の検索ができるサーチエンジンの出現とその検索技術の目覚しい発展に伴って、ユーザは社会的記憶に
保存されている様々なナレッジを知ることができ、利用でき、そして更新することが可能となった。
インターネットを使用する人間がそれぞれ持つ「社会的記憶」。これが融合したり、露出しあったりすることで、
新たな知識や情報が生まれる可能性が今日飛躍的に増した。同時にその知識や情報には商品価値が
存在することもあり得るということだ。